こんにちは!
医療法人社団SED 理事長の山口です。
このブログでは、子どもの口呼吸がもたらす悪い影響についてご説明いたします。
2021年の大規模な疫学調査¹では、日本の子供の3分の1近くがすぐに見て分かるような口呼吸をしていると分かっています。
また無自覚な口呼吸を含めると、5分の4、つまり80%近くのお子様が、口呼吸でお口ぽかんの状態であると言われています。
¹Environmental Health and Preventive Medicine 2021
低位舌症
口呼吸の子供のうち、かなりの人が低位舌症(ていいぜつしょう)になっていることを、以前にブログでご説明いたしました。
低位舌症とは、舌の位置が下がり、本来の正常な位置にない状態のことです。
会話をしているときは舌は自由に動きますが、それ以外の時には、常に決められた場所に舌先がついているのが正常な状態です。
この場所を「スポット」(図1)と呼びます。スポットの具体的な場所は、2本の前歯の後ろ、歯の裏側の歯ぐきです。
全身の健康を維持するためには、鼻で呼吸しながら舌を口の中のスポットに軽く触れるようにすることが大切です。
舌先をスポットにつけていると、舌の根元が離されて気道が開きます。(図2)
気道が広くなることで、酸素を吸い込みやすくするのに役立ちます。このような条件は、お子様の健康な呼吸にとって非常に重要です。
口呼吸の子どもは、舌の位置が定位置にない「低位舌症」です。なぜ口呼吸の子は低位舌症になるのでしょうか。
舌が本来の位置である「スポット」に固定されていると、舌が障害物となり、口からの空気の流れが妨げられます。つまり、舌の位置を下げなければ、口で呼吸することはできません。
実際に舌先をスポットにつけて、口から息を吸い込もうとしてみてください。非常に大変であることがおわかりいただけると思います。
舌がスポットに触れていないと、口呼吸が始まります。このとき、お子様の体にはどのような反応が起こるのでしょうか?
舌先がスポットから離れると、舌の根元は気道の下方に下がっていきます。(図3)(舌根沈下)
この下垂の結果、どのような影響が出るのでしょうか?図をよく見ていただければ、ご理解いただけると思います。
図2と比べて舌の根元が気道に入り込むため、空気の吸入量が減少します。
簡単に言えば、呼吸がしづらい状態です。
呼吸がしづらくなると、子どもは首を後ろに反らすことが多いです。これは意図的な行為ではなく、自分を守るための無意識の反射です。気道の狭さを解決するために、頭を後ろに反らして気道を開こうとしています。
また、頭を反らせると前が見えづらくなります。そのため、帳尻を合わせるように猫背になっていきます。これが、猫背になるプロセスです。(図4)
口呼吸と睡眠の関係
口で呼吸をしている子ども達は、夜眠っても深い眠りにつくことができません。
睡眠には2種類あります。レム睡眠とノンレム睡眠です。
基本的にレム睡眠は浅い眠り(夢を見ている)、ノンレム睡眠は深い眠りです。
ノンレム睡眠はさらに、第1相、第2相、第3相、第4相の4段階に分別され、第1相から第4相に進むにつれて眠りは深くなっていくのだそうです。
子供の成長・発達に極めて重要な成長ホルモンは、より深いノンレム睡眠である第3相と第4相で分泌されます。
子供の成長のためには、成長ホルモンの分泌は非常に重要です。
そのためには、ノンレム睡眠の第3相、第4相に達する必要がありあます。
しかし、長時間寝ていても口で呼吸をしていると第3相、第4相に達しにくくなり、ホルモンの分泌が少なくなってしまうのです。
成長ホルモンは骨の軟骨や肝臓に関与し、IGF-Iという物質の産生を促します。
これにより骨の成長が促され、身長が伸び、身体が育っていきます。
このホルモンは、夜間の深い眠りの時間帯やノンレム睡眠の第3、4相に特に活発に分泌されます。
習慣的に口呼吸をするとノンレム睡眠の第3相、第4相に到達しにくくなり、ホルモン量が24時間ずっと制限され続けることになります。
口呼吸は、成長ホルモンの分泌を減少させ、結果的に身体発育を阻害します。
また、舌の位置が低い(低位舌)と、舌が気道を狭めてしまう舌根沈下になることをお伝えしました。
さらに、低位舌のお子様が横向きに寝ると、重力によって舌根がより気道に落ち、空気の通り道が完全に塞がれる可能性があります。(図5)
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群は、寝ているときに何度も呼吸が止まる睡眠障害です。
気管が完全にふさがれて酸素不足になるため、眠っても疲れが十分に回復しません。その結果、日中に突然の眠気に襲われることがあります。
また、無呼吸症候群の方は交通事故に遭いやすく、一般の方の2.5倍と報告されています。さらに、成長期の脳は大人以上に酸素を必要とするため、子供にも大きな影響を与えます。
特に体の中でも、脳は全体の酸素の25%を使うほど、多くの酸素を必要としています。
脳への酸素供給が滞ると、脳へのダメージに繋がります。
睡眠時無呼吸症候群によって脳への酸素供給量が減少すれば、その影響は計り知れないと考えるのが自然でしょう。いびきや無呼吸などで熟睡できない子供の約40%が注意欠陥障害(ADD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)を発症したり、学習障害を発症するという調査結果があります。²
²Goyal A,Pakhare AP,Bhatt GC,Choudhary B,Patil R(2018)Association of pediatric obstructive sleep apnea with poor academic performance:A school-based study from India.Lung India 35:132-136
さらに、子供が8歳を過ぎてもいびきをかいている場合、認知能力が永久に20%低下する可能性は80%にも上ると言われています。³
³Catalano P,Walker(2018)Understanding Nasal Breathing:The Key to Evaluating and Treating Sleep Disordered Breathing in Adults and Children.Curr Trends OtolaryngolRhinol:CTOR-121.
以上の事から、注意欠陥障害(ADD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)の原因として、口呼吸が関係している可能性があることが分かっています。
ただ、日本ではまだその認識はあまり広まっていないのが現状です。
子どものための良い呼吸とは?
一般的に、良い呼吸とは、静かで穏やかで、鼻から行うものです。
反対に悪い呼吸とは、うるさく、肩や胸に力が入っていて、口から行っている呼吸です。
良い呼吸は、例えるなら、鳥の羽が鼻の上にのっていても吹き飛ばされないような状態です。
まとめ
口呼吸は、子供の発育に重大な影響を及ぼします。酸素の流れが悪くなると、疲労感、成長・発達の遅れ、集中力の低下などの問題が生じます。また、睡眠パターンが悪くなり、学習能力や記憶力の低下にもつながる可能性があります。
正しい鼻呼吸のために、喋っている時以外は、舌は常にスポットにあてているようにしましょう。
正しい呼吸の習慣を身に付けることで、人生の早い段階から健康的な習慣を育むことができます。
このブログが親御さんの子育てに少しでも役立てば嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
医療法人社団SED
理事長 山口和巳